桜が散ったら、君に99回目のキスを。

動かなきゃ。


ここじゃ人の邪魔になる。


重い足をなんとか動かして、なんとか木のベンチに辿り着く。


背もたれに体を預けると一気に気が抜けて、くしゃりと顔が歪んだ。


大声で泣き喚いてしまいたいほど、胸が痛かった。


ヒリヒリした。


苦しかった。


私を忘れたふりをしたなら、それは私との縁を断ち切られてしまったことに等しい。


幾度となく頬を滑った涙が、音もなく手の甲に落ちる。


空気を求めて空を仰げば、青く枝を伸ばした桜が私を見つめていた。


皮肉だ。


桜を見る度に、柔らかく揺れる黒髪を思い出して。


あの小説を読む度に、叶わぬ恋に想いを馳せて。


私はきっと忘れることができないのだろう。


だったら、


「…もう、無理かもしれない」


恋にも体力がいるなんて知らなかった。


もう一度追いかける力なんて、これっぽっちも残ってはいない。


誰も知らないうちに、ひっそりとさよならを告げてしまおう。


花が咲けば、もう戻れない。


蕾のうちに、手放してしまおう。


跡形もなく、消してしまえばいい。


不完全ならきっと、その先を願ってしまうから。


宵の匂いを連れた風が、濡れた頬を攫った。


それは確かに、恋の終わりを告げる音を秘めていた。