そうして、20時を少し回った頃、指導の合間に鳴った電話を取る。

「こんばんは。はなまるでございます」

教室とは別回線を取った私は、一瞬で先生モードからOLモードへと切り替える。

「お疲れ様です。中橋です。ねこ先生?」

優しいテノールの声。

「はい。お疲れ様です」

「ゆうなちゃん、契約取れたよ!
 ありがとう」

「えっ、ほんとですか? 良かったぁ。
 おめでとうございます。
 所長に代わりますね」

ゆうなちゃんは、昨日、私が体験学習を指導した女の子。

体験学習後は毎回お母さんに電話を代わってもらい、その日の報告と共に、営業さんが訪問するためのアポ取る。

何か買わされると警戒するお母さんも多い中、アポを取るのは簡単ではない。

それでも、私は、せっかく行った営業さんが門前払いに合わないように、お母さんの警戒心を解き、いい状態で訪問できるように心がけている。


電話の中橋さんはうちの営業所ナンバーワンの営業さん。

他の営業さんが月2〜300万で胸を撫で下ろしてる中、一人で1000万以上売り上げてくるので、営業さんたちからはバケモノと呼ばれている。

中橋さんは、28歳の爽やかなイケメンさんなので、バケモノとは対極にいる人だと思うんだけど……

なのに、売上がそれほどでもない営業さんの中には、ルックスが良いからだ…と陰口を叩く人もいる。

それでも、それを知ってか知らずか、中橋さんは、誰の悪口を言うわけでもなく、飄々としている。

そんな中橋さんの物腰の柔らかさや、親身になって話を聞く姿勢は、押しが強いだけの営業さんにはない強みだと思う。



そんな中橋さんだから、ルックスに全く興味がない私も、つい中橋さんを目で追ってしまうし、今みたいに電話を受けるだけで、嬉しくなってしまう。

私なんて相手にされるはずないのに…