「なんでそんなに急いで帰ろうとするんですか?」


「うちの母親うるさいの。だから、めんどくさくなる前に帰ろうとしただけ。」


でも、冷静に考えたら、どうせ家にお母さんなんていないか

そう思った途端、急いで帰ろうとした自分に笑えてきた


「帰しませんよ。」


「なんで?」


私が帰ろうがなんだろうが本田くんに影響はないでしょ?


「自分で言っといて忘れないで下さいよ。」


何を?

私なんか言ったっけ?


「昨日、明日時間を下さいって自分で言ってたじゃないですか。わがままは許しますけど、ドタキャンは許しませんよ。」


そうだ、私、本田くんに話すって決めたんだ

忘れてた…


「そう、だった。ごめん、忘れてた。」


いざ話さなきゃと思うと、それはそれで言葉が纏まらない


「何から話そうか。」


頭の中を少し整理して、話せることを話した


私の記憶の一部が欠落していること

カウンセリングを受けていること

お父さんが居ないこと

お父さんが暴走族のせいで死んだかもしれないこと


言葉はめちゃくちゃだったかもしれない

嘘無く真実だけを話した

言葉につまることはあったけど、本田くんは真剣に耳を傾けてくれた


「わかった?私はあなた達暴走族と一緒にいる訳にはいかないの。」


相変わらず私は素直じゃない

本当は、一緒にいたいって言えばいいのに

そんな言葉私には似合わないし、相応しくない

私の話を聞いた本田くんは、表情を変えずに私を見つめている


「わからない。」


「はぁ…?」


「分からないって言ってるんです。」


今の話を聞いても本田くんは、納得してくれないってこと?

じゃあ私はどうしたらいいの?


「真鍋さんの話はわかりました。ですが、それが俺と一緒に居られない理由にはなりません。というか、俺がそんなの許しません。」


「じゃあ、私にお父さんを裏切れって言うわけ?」


「そうは言ってません。じゃあ、真鍋さんは、俺達が人を轢き殺すような集団に見えましたか?」


それは…

見えなかった



そうは言えなかった


それを言葉にしてしまえば、完全に本田くんのペースになってしまうと思ったから


「俺が、そんな最低な集団の一員に見えますか?」


見えないよ…


何も言えないまま下を向く


何を言っても負け、言わなくても負け


本田くんが発する言葉の一つ一つは、私を黙らせるには十分だった


「俺が、真鍋さんのお父さんを殺した犯人を見つけます。」


犯人を見つけてくれるの…?


「ほんと…?」


「はい、俺、嘘はつかないって言いましたよね?」


そうだったね

昨日の言葉も嘘じゃなかった

私を一人にしないってほんとだったんだね


「嘘はつかない主義って言ってたわね。でも、私は本田くんに嘘ついてるかもよ?」


今の話だって嘘かもしれない

そう簡単に私を信じていいの?


「俺を誰だと思ってるんですか?これでも一応総長ですよ?人を見る目は養ってきたつもりです。」


「フフッ…そうだったね。」


話して安心したのか、思わず笑みが零れた


「真鍋さん。」


改めて目を見合わせると、真剣な表情になった


「俺が必ず犯人をみつけます。だから、今みたいに笑っていてください。その笑顔を俺たちに、夜月に守らせてくれませんか?」


私を助けてくれるの?

こんな一人ぼっちの私を…?


「本田くん…。」


「はい?」


そう問いかける本田くんの顔は、とても穏やかだった

本田くんなら、信じていいよね?

お父さん

私、本田くんを信じたいの

必ず、犯人見つけるから

こんな私を許して