「屋上から私を運んだんでしょ?」
「はい。もうあんな所で寝ないでくださいね。」
じゃあどこで寝ろって言うのよ
そんな悪態を吐きそうになったが、グッと堪えた
本田くんは、私を思って言ってるみたいだし、それを無下にするほど私は冷たくない
「どうですか?」
「どう、とは?」
本田くんはきっと私の体のことを心配してるんだろう
それを分かっていて私は言葉を濁す
「体ですよ。真鍋さん、風邪引いてますよね。」
ほらね?
本田くんにはなんでもバレバレ
隠しても無駄ね
「まー、こんだけ寝たらもう大丈夫でしょ。」
大丈夫じゃないことなんて本田くんには見透かされてるだろう
でも、ここで大丈夫じゃないって言ったらどうなるの?
何か変わる?
いや、変わらないよ
「38℃以上の熱があるんですよ。大丈夫なわけないじゃないですか。」
「分かってるなら聞かないでくれる?」
あれだけ寝たのに下がんないのか
もう、帰ってまた寝よ
「じゃ、私帰る。これ、ありがとう。」
ブレザーを綺麗にたたみ、ソファに置くと、フラッと立ち上がった
足に力を入れていないとすぐにでも倒れそう
「ちょっと待ってください。」
本田くんの横を通り過ぎようとした途端腕を捕まれ、引っ張られた
今の私を止めることなんて誰でも出来るだろう
足に上手く力が入らない私は、いとも簡単に本田くんの方に傾いた
「真鍋さんはいつも人の話を聞きませんね。しかもこんなにフラフラな状態で帰すわけないじゃないですか。俺を誰だと思ってるんですか?」
本田くんの割には結構マシンガン的な話し方だ
それだけ私は本田くんの癇に障る行動を取ったのだろう
「じゃあどうやって帰れって言うのよ。」
それでもなお、こんな態度をとるのは私くらいだろう
ましてや相手は有名な暴走族の総長様
今も私の腕を掴んだまま離す気配はない
「俺が送ります。ちょうど車なので。」
今、なんて?
私熱のせいでついに頭おかしくなったんじゃない?
総長様が私を送る?
そんなのあるわけないじゃない
「聞いてます?」
反応がない私に、怒りではなく心配したような顔を向けてくる
こんな顔する人が、本当に総長なんてやっているのだろうか
「誰が誰を送るって…?」
このまま黙っていても埒が明かない
私の頭がおかしくなってることを確認したかった
だって、本田くんが私を送るだなんて、ありえないでしょ?
「だから、俺が真鍋さんを送るって言ってるんです。」


