少し落ち着いた彼女から身を離し、今度は手を引いて倉庫に向かった

俺の後ろを着いてくる彼女は、今までになく弱々しい姿だった…

俺達は一言も言葉を交わすことなく倉庫まで歩き続けた

体が雨で冷えきった頃、倉庫に到着した


「ここです。夜月の倉庫。ここに碧もいます。」


何かが意外だったのか、涙がやんだ瞳は不思議そうな色を浮かべている

俺は、そんな彼女を気にしながらも、早々に倉庫の中に引き入れた


ガラガラ


「総長、おかえりなさい!」


「総長、びしょ濡れじゃないですか?!」


「タオルどうぞ!」


下っ端たちの挨拶に驚いているみたいだが、こればっかりは慣れてもらうしかねぇな

2人とも全身ずぶ濡れだが、ここで女にタオルを譲らないほどちいせぇ男じゃない

彼女にタオルを譲っても、素直に受け取らないのが彼女だった

もう1枚あったから良かったものを、なかったら2人ともずぶ濡れのままだったな

下っ端にも敬語なのはやっぱりおかしいか?

下っ端も事情は知っているからか、合わせてくれて助かった

一通りの掛け合いが終わると、彼女を連れて幹部室に向かった

俺が迷いなく入ろうとすると、彼女はここで待ってると言い出す始末


「真鍋さんをなんのために連れてきたと思ってるんですか。ここに入らなきゃ意味がありません。」


「だってこれ……」


あー、この張り紙のせいか

総長の俺が入っていいって言ってるのに、こんな張り紙忠実に守ろうとするとはな


「いいから、来て下さい。」


「いや、ちょっと……っ!」


遠慮する彼女を無視し、手を引き、無理やり部屋の中に引き込んだ

ガチャ


「おっ、凪斗おかえりー。って、なんで真鍋さんいんの?そんでなんでびしょ濡れ?」


「おかえり……。」


「おっす。」


「繁華街で会ったので連れてきました。もともと近いうちに連れてくるつもりでしたし。」


「あれ本気だったのか。」


「へー。凪斗のお気に入りちゃんね。」


「誰……?」


俺の話聞いてバカにしてきたくせに弦輝のやつ覚えてないのか?

まぁいい

これから嫌でも分かってもらうからな

そうこう考えているうちに、碧が彼女にメンバーの説明をしてくれた

その説明に彼女の困惑も少しは晴れたみたいだが、彼女は俺に言葉をなげかける


「本田くん、なんで私を連れてきたの?」


「言いましたよね?一人にしないって。こいつらは真鍋さんを仲間だと思ってくれます。あとは、真鍋さんがこいつらを信じて下さい。」


少なくても俺は、離すつもりはねぇし、一人にする気もねぇ

明らかに戸惑いの表情をしているのに、彼女はきっと強がるのだろう


「むっ無理よ。私は望んで一人でいるのよ?」


一人を望んでる?

そんなわけない

繁華街で見た、あの助けを求めるような目は忘れねぇ

今も同じ目をしてるのが分からねぇのか?


「一人を望んでる訳では無いでしょ?真鍋さんは、人の温もりを知らないだけです。そこから逃げてるだけですよ。」


「私は別に逃げてなんか……っ」


「俺は、真鍋さんと仲間になりたいと思っています。」


俺の言葉に言葉をとめた彼女は、少し考える素振りを見せたあと、やけに冷静な表情に戻った

なんでまた、その顔に戻るんだよ…

なんで、また、その何も寄せつけない状態に戻るんだ…


「私は、仲間なんていらない。さっき私が言った言葉、責任とってってやつ、なしにしていいから。」


「やっぱり、真鍋さんは口の割に顔は素直ですね。」


何も寄せつけないように見えるその表情の裏には、なにか助けを求めているようにも見えた

俺は、それを見逃さなかった


逃がさねぇよ


今は俺の口から何を言っても無駄だと判断した俺は、とりあえず長期戦覚悟で帰ると言った彼女を帰した

明日が楽しみだ

俺はその後、幹部に彼女を夜月に本気で迎え入れる気でいると話し、近いうちにまた連れてくると宣言した


俺は、彼女を一人にしねぇ


離してなんかやるものか


覚悟してろよ…