次の日、早くも俺と碧が夜月のメンバーだということがバレたみたいだ

廊下でキャーキャー騒ぎやがってと口走りたい気持ちをなんとか抑え、足早に教室に入った


「なぁ、凪斗。この空気どうにかなんねぇの?2日目からこんなふうになるとは思ってなかった。」


「まぁ、そのうちこうなることは分かってましたし。」


「そうだけどよー。」


碧は、チャラい割にこういったことが苦手だ

それはさておき、碧からは殺気を感じる

まぁ、あいつにとっては女の悲鳴は嫌な思い出しかないからな

俺はそんな碧を容認していたが、彼女がそれを許さなかった


「殺気、閉まってくれない?香澄怖がってるし。」


「あっ、ごめん!」


普通殺気出てるやつに女が話しかけるか?


「えっ?!こ、怖くないし!」


碧からは殺気が消え、三澤を気にしてチラチラ視線を送っていた

ほんとに惚れちまったんだな


「大変ね、暴走族の総長と幹部ってだけでこんなに騒がれて。」


…今なんて言った?


その言葉に碧はポカーンとした顔になり、俺も変わったもの見るかのように視線を向けた


「何よ、変な事言った?」


彼女は、自分が変なことを言った自覚がないのだろう

我に返った碧が一人、笑い始め、彼女はあからさまに嫌な顔をした


「あー、ごめんね、笑っちゃって。でも馬鹿にしてる訳じゃなくて、なんて言うのかな……。真鍋さんみたいなこと言う人珍しくてさ。
俺らは暴走族で、しかも幹部以上。それだけで地位が欲しくて色んな奴が寄ってくる。もしくは、怖がって俺らを避ける。そのどちらでもない行動をとる人は俺らにとっては貴重ってわけ。」


この碧の言葉を聞いても尚、“関係ない”の一言で済ます彼女はやはり“普通の女”じゃないと改めて思う

面白い

離したくない

気づけば俺の心は“独占欲”に似た感情が渦巻き、彼女を連れ出す誘いの言葉を口に出さずには居られなかった


「ねぇ、今日真鍋さん暇ですか?」


「なんでそんなこと聞くのよ。」


「真鍋さんを連れていきたい場所があります。」


「凪斗、マジで連れていくのか?」


「はい。」


「まぁ、真鍋さんならあいつらも何も言わなそうだけど。」


既に気に入ったやつが出来たことは話済み

彼女に会えば俺が気に入った理由は鋭いアイツらなら分かるだろう

だが、彼女はそう簡単に手に落ちてくれる女ではなかった


「行かないわよ。誰か連れていきたいなら、喜んでついて行きそうな人その辺に沢山いるじゃない。」


「真鍋さん以外連れていく気なんてないですよ。」


俺の誘いを断る奴は珍しい

だから面白い


「私、放課後は忙しいの。だから無理。」


「じゃあ、暇な日できたら教えてください。絶対ですよ。分かりました?」


「はいはい。」


絶対逃がさねぇ

どんなに時間がかかっても必ず手に入れる

授業が始まる前に教室から出ると、廊下のうるさい野次馬はいなくなっていた

そのまま俺は口角が上がりそうなのを我慢しながら第4音楽室に向かった


これから面白くなりそうだ…