無言で歩き続けた私達は、大きな倉庫の前で足を止めた
「ここです。」
ずっと、下を向いて歩いていたが、顔を上げると落書きの一切ない綺麗な倉庫が建っていた
「夜月の倉庫。ここに碧もいます。」
私を連れていきたかった場所ってここ?
何故私をここに?
いつの間にか涙は乾き、雨がその涙を隠してくれた
ベチャベチャに濡れた本田くんの姿に少し罪悪感を抱きながらも、目の前の倉庫に歩みを進める
ガラガラ
「総長、おかえりなさい!」
「総長、びしょ濡れじゃないですか?!」
「タオルどうぞ!」
入った途端下っ端らしき人が何人もいて、詰め寄ってきた
タオルまで渡してくるあたり、なかなか優秀みたい
総長
そう呼ばれる本田くんがなんだか遠い存在のように感じた
「これ、使ってください。」
そう言って本田くんが受け取ったタオルを私に差し出してきた
「私、要らない。先に本田くんが拭いて。」
私のせいで濡れたも同然な本田くんからタオルまで奪うほど私は非常識ではない
「あっ、タオルならもう1枚あるのでどうぞ!」
下っ端くんがもう1枚どこからか持ってきてくれたみたい
「ありがと……。」
「俺たち上行きますね。海志、タオルありがとうございます。」
「はい、幹部の皆さん待ってますよ。」
下っ端にも敬語なのね
下手したら年下かもしれないのに
その敬語の意味を知ろうとは思わなかった
そこを聞いてしまうと、本田くんの土俵に土足で踏み込んでしまう気がしたから
また本田くんに手を引かれ階段を上る
そこに一つの扉があり、«幹部以外立ち入り禁止»と書いてあった
ここは、私なんかが入っていい場所じゃない
そう察した私は、本田くんの手を離した
「私、ここで待ってる。」
「は?真鍋さんをなんのために連れてきたと思ってるんですか。ここに入らなきゃ意味がありません。」
「だってこれ……」
貼り紙を指さす私の声なんて無視した本田くんは、私の手をつかみ直し、また手を引かれた


