グレーとクロの世界で



今、何時だろう

スマホはバッグの底に埋まってるだろうし、取り出すのも面倒だ

何時でもいいか

今日はいつも以上に帰りたくない

ポツリポツリと雨の雫が体を濡らす

今日はそれすらもなんだか気持ちいい

空を見上げてももう分厚い雲は見えない

闇に包まれた空を見上げては雨が顔に降りかかる

傘を持たない人は雨から逃げるように走りさって行く

そんななか、雨に打たれ続けたまま動かない私はなかなか奇妙だろう


雨のせいで人がいなくなった繁華街は雨の音しか聞こえない


ゆっくりとフードを脱ぎ、周りを見渡しても、誰もいなかった


「やっぱり、一人か……。」


どこに行っても私は一人みたい

そう思ったのもつかの間、背後から声が聞こえた


「何やってるんですか……?」


あっ、人がいる

しかも、私を見てくれる人

後ろを振り返ると、私を知っていて私も知っている人がまたそこにいた

よく会うね、私たち


「何やってるのって聞いてるのが聞こえませんか?」


「聞こえてるよ、本田くん。あなたこそ何やってるのよ。」


何やってるのか聞かれたところで、答えることは無い

だって、何もやってないんだから


「俺はただ通っただけです。真鍋さんは?」


「私は……そうね。強いていえば用事の帰り。本田くんは、名取くんが一緒じゃないの珍しいわね。」


嘘はついていない

だいぶ遠回りの帰り道

これ以上詮索されたくなくて、話をそらす


「ただの帰り道にはどう考えても見えないですが、言いたくないなら聞きません。これから用事は?」


「ないわ。言ったでしょ?用事の帰りって。」


「そうですか、じゃあこれから俺に付き合ってもらいます。」


はぁ?


「もう10時過ぎです。今更門限なんてないですよね?真鍋さん、暇な時間できても教えてくれなそうですし、善は急げともいいますし。」


何時に繁華街に来たかもわからないが、10時を過ぎているということは随分と長居してたみたい

それよりも、本田くんはこの間言っていた連れていきたい場所ってところに連れていく気?

そんなの付き合うわけないでしょ

一人は嫌

でも、人の温もりに触れるのはもっと嫌なの


「嫌よ。私はあなたにこれ以上関わる気は無いわ。関係ないし。」


「関係ないとか簡単に言わないで下さい。」


「じゃあ、こう言えばいいかしら?もう私に関わらないで。」


この時、また言ってしまった
そう思った

もしかしたら一人に怯えることも、苦しむこともなくなるかもしれないのに

私は自分で差し伸べられた手を払ったの

大丈夫、またいつも通りに戻るだけ