グレーとクロの世界で


「……ちゃん、夏音ちゃん!」


宮田さんに呼ばれて目を開けた

すると、心配そうな顔をした宮田さんが私の顔を覗き込んでいる


「今日はいつもと様子が違うわね。なにか思い出した?」


そう言われて初めて、体中に汗をかき、呼吸が乱れていることに気がついた

制服がくっついて気持ち悪い

でも、この今までにない感覚に、記憶の断片を感じた


「なんて言うのかな。夜の海辺の道をお父さんと歩いていて、そしたら、綺麗な星みたいな無数の光が見えたの。それが何かは分からない。それだけは思い出しました。」


初めて何かを思い出した

7年間も変化がなかったのに、突然記憶が戻り始めていることに宮田さんも驚いている


「記憶が戻りかけているのかもしれないわね。最近、なにか刺激的なこととかはなかった?」


刺激的なこと?


「特に思い当たりません。高校に入学したくらいです。」


「それがいい刺激になっているのかもしれないわ。
夏音ちゃんは、記憶取り戻したい?」


私は、どうしたいんだろう

きっと、記憶が取り戻せなくても困ることはない

でも、自分の一部が欠落しているのはなんだかいい気分でもない

それに、なんだか、私は大事なことも忘れている気がする


「取り戻したいという気持ちはあります。でも、どうしたらいいのかも分かりません。」


記憶が戻ったら、今まで保ってきたものが壊れてしまいそうな気がする

そう考えるとどうしたらいいのかも分からない


「夏音ちゃんにとって、今は重要な時期だと思うの。この、記憶が戻り始めている時期は、全てを思い出すチャンスになる。だから、もし、高校生活が何かしらの影響を与えているなら、それに賭けてみるのもありかもしれないわね。」


賭けか……


「無理に生活スタイルを変える必要はないのよ。いつも通り過ごしてみて?」


「はい、分かりました。じゃあ、今日はもう帰ります。なんだか疲れたので。」


私の人生にはなんの刺激もないんだと思っていた

でも、なにかしらの刺激は感じていたのだろう

そう思うと、つまらない人生も少しだけ色づいた気がした


「そうね、今日は終わりにしましょ。何かあったらいつでも連絡してね。」


「はい、ありがとうございました。失礼します。」


その一言を最後に部屋を後にし、病院から足早で帰路につく