それから数日が経ち、毎日のように名取くんと本田くんに予定を聞かれる
いい加減忘れて欲しいものだ
しつこいタイプはあまり好きじゃない
今日は、学校が終わると一人早足でいつもと逆方向に歩みを進めた
今日は月に1回のカウンセリングの日
通い慣れた病院までのこの道をもう何年歩いただろう
確か、7年位だったかな
カウンセリングは別に嫌じゃないけど、楽しいものでもない
ただ近況を話して、なにか思い出したことは無いかを聞かれるだけ
記憶を思い出そうとすると、頭痛がするからいつも思い出す前に考えるのを辞めてしまう
カウンセラーの宮田さんも無理に思い出さなくていいっていつも言ってるし
そうこう考えているうちに、この辺りでは一番大きい病院の前に着いていた
いつ見ても威圧感を感じるこの建物は苦手だ
さっきよりも早足になりながら、受付を済ませて、いつもの部屋に向かった
コンコン
「どーぞー。」
ガラガラ
「宮田さん、こんにちは。」
「夏音ちゃん、久しぶりね。さぁ、座って?」
「失礼します。」
宮田波瑠さん
見た目は綺麗な大人の女性って感じ
年は確か40歳前後だったと思う
当時まだ8歳だった私を担当してくれた人
「どう、変わりない?」
「はい、特に思い出したこともありません。」
「そう、じゃあゆっくり思い出してみようか。」
もう慣れたいつも通りの会話
「私がこれから言うことをイメージしてね。」
そう言われて目を閉じる
これからイメージすることは毎回やっていること
いつも途中でダメになっちゃう
今日もきっとダメだろう
「夏音ちゃんはあの時、どこにいる?」
「…。」
あの時……お父さんが事故にあった時
毎回思い出せない
「夏音ちゃんは、お父さんと海辺の道にいるの。今は何時頃かな?」
海辺の道
そう言われ、昔住んでた家の近くにある海辺を想像した
それは何時頃だろう
分からない
「…。」
「夜の9時頃よ。その日は星が綺麗な日だったわ。」
夜の海辺
綺麗な星空
お父さんと一緒にいた日
目を閉じたままイメージをふくらませる
イメージが鮮明になって来ると、私の頭は悲鳴をあげる
あれ?
なにか見える……
星じゃない
でも、無数に光る綺麗な星みたい
思い出したい……
私は思い出せるかもしれない感覚を初めて感じた
ズキンズキンッ
頭が割れそう


