グレーとクロの世界で


「ねぇ、今日真鍋さん暇ですか?」


今までずっと黙って私のことを見つめていた本田くんは、突然私に話しかけてきた


「なんでそんなこと聞くのよ。」


「真鍋さんを連れていきたい場所があります。」


連れていきたい場所?


「凪斗、マジで連れていくのか?」


「はい。」


「まぁ、真鍋さんならあいつらも何も言わなそうだけど。」


何勝手に話進めてんの?

行くなんて一言も言ってないし、あいつらって誰よ


「行かないわよ。誰か連れていきたいなら、喜んでついて行きそうな人その辺に沢山いるじゃない。」


なんでよりにもよって連れて行ってもなんの価値もなさそうな私を選ぶわけ?


「真鍋さん以外連れていく気なんてないですよ。」


サラッとカッコイイこと言ってるけど、そんな事じゃ私の心は動かない


「私、放課後は忙しいの。だから無理。」


私にほとんど忙しい日なんてない

家に帰って、一人でご飯を食べて、一人で寝る

話す相手もいなければ、無駄に広い家でずっと一人

記憶が欠落した時から月一で通っているカウンセリング以外の予定はまるでない

運動には興味無いし、塾に行く必要も無い

ほんと、つまらない人生だ


「じゃあ、暇な日できたら教えてください。絶対ですよ。分かりました?」


「はいはい。」


軽く返事をしておけばそのうち忘れるだろう


「夏音、気に入られたね。」


気に入られたくなんてないんだけど

私を貴重な人とか言ってたけど、私からしてみれば、本田くんも貴重だ

こんな愛想ない私に構ってくる人なんてそういない

香澄みたいな物好きくらいだ

高校生活2日目にして、面倒な人に気に入られてしまったみたいだ

それから、何やら本田くん達は話していたが、もう話を聞くのを辞めた

これ以上関わったらいけない気がしたから

その日一日は、初回の授業だから、とりあえず全部出席した

どの授業も自己紹介やらなんやらつまらないことしかない

やっぱりサボるべきだったかな

本田くんはいつの間にかいなくなってるし、きっとあの音楽室にいるのだろう

あそこには近づかないようにしないと

会うとまた面倒だ

私は寝たり起きたりを繰り返し、何とか最後までつまらない授業を乗り切った

本田くんは授業に出たり出なかったりと、神出鬼没

私は帰りのホームルームを終え、直ぐに荷物の整理をして帰る準備を済ませた

誰にも声をかけず、一人でそそくさと教室を出ていく

まるで私の存在なんてなかったかのように、私に声をかけて来る人はいない

香澄は掃除当番で教室に居ないし、他に話す人もいないしね

一日何もしてないのに疲れる

人と関わるだけでこんなに疲れるなんて思わなかった