結局、試合はそのまま8-0で明協の7回コールド勝ち。最後は関口さんと村井さんの2年生バッテリーで締める余裕の展開だった。


私が試合後の挨拶や片付けに追われてる間に、松本くんは報道陣からの取材を受けている。


地区予選のまだ3回戦だけど、二試合にまたがって、3打席連続ホームランで、今日はスリーラン2本6打点。それになんと言ってもまだ1年生であの松本哲投手の実弟となれば、いやでも注目される。


明日の新聞の地方版には、それなりの大きさで報じられるだろう。


全てを終えて、私が迎えに行くと、ちょうど取材が終わって、解放されたところで、松本くんが私を見て、ホッとした表情を浮かべながら近づいて来る。


「お疲れさま。どうだった?ヒーローインタビュー。」


「頭真っ白になった。あんなに人に囲まれたこともなければ、フラッシュ浴びたこともないから。とにかく緊張した。」


「そうだよね、でも明日の新聞が楽しみじゃない?お父さんとお母さん、きっと喜ぶよ。」


「どうだろう?兄貴で慣れてるからな、ウチの親は。」


そんなことを話しながら、バスに乗り込むと、待っていたみんなから、一斉に拍手が。驚いたように立ち止まった松本くんに


「ナイスバッティングだったぞ、省吾。」


キャプテンが笑顔で声を掛ける。


「あ、ありがとうございます。それよりすみません、お待たせしてしまって・・・。」


恐縮したように言う松本くんに


「そんなことは気にするな。それより記者さん達にアピールして来たか?兄貴なんて、目じゃないって。」


笑いながらキャプテンが言う。


「と、とんでもないです。」


慌てて、首をブンブン振る松本くんに、みんなからも笑いが起こる。


「さぁ、出発しよう。」


部長の山上先生の声で、バスが動き出す。するとマイクを手にした監督が


「みんな、お疲れさん。今日の勝利は、もちろん松本の2発が大きかったのは間違いないが、点を取るまで、こちらがキッチリ守り抜いたことが勝因だ。改めて言うこともないが、野球はまず守りからだ。それをこれからも忘れないで、やって欲しい。」


とみんなに語り出す。


「今日で我々は3回戦を突破した。しかし戦いはまだまだこれからだ。次回の試合は3日後、相手は東海高校に決まった。」

それを聞いて、バスの中の空気がピンと張りつめる。


「そりゃ、そうなるよな・・・。」


誰かの声が聞こえて来る。私は小林雅則と牧原由貴子の顔を思い浮かべていた。