決勝戦。試合前のマネ-ジャ-同士の挨拶の為に、所定の位置に向かった。相手は、哲が「上がって来い」と念願してた明協高校。


「本日はよろしくお願いします。」


相手校マネ-ジャ-の木本さんが丁寧に頭を下げてくれる。抽選会の時も思ったけど、本当に可愛いらしくて、美人さんで、しっかりした子。


「こちらこそ。とにかく、お互いに悔いの戦いをしましょう。」


「はい。」


言葉短く、健闘を誓い合うと、私たちは別れたんだけど、明協さんは昨年1年、マネ-ジャ-が不在で苦労されたと聞いている。待望のマネ-ジャ-が彼女なら、みんな万々歳だったろうけど、もし私が西くんと一緒に明協に入っていたら・・・なんて妄想を何度かしてしまったのは、誰にもナイショのことだ・・・。


ベンチに戻ると、試合前の明協の練習が始まっていた。見るとはなしに眺めていると


「次、ファースト。」


監督さんが放ったノックのボールを捕って、矢のような送球をキャッチャ-に返したのが、西くんであることに改めて気が付いて、胸をつかれる。


彼のキャッチャ-としてのこだわり。哲とケンカして、ウチの高校への推薦を辞退してまで、守り抜きたかったはずのプライドを、彼はかなぐり捨て、彼はファーストのポジションについている。


私たちに、哲に勝ちたい。そして甲子園に行きたい。その執念の表れだった。


(今日の試合は、厳しい戦いになる・・・。)


私はそう思った。そして・・・その予感は的中し、私たちが9割方掴んでいたはずの勝利、5季連続の甲子園は、まるで指の間から零れ落ちる砂のように、スルリと私たちの手から離れて行ってしまった。