【一ノ瀬 side】


『いってらっしゃい』


先週の水曜日、
天野と図書室で過ごした帰りに

天野が口にしたその言葉を
思い出すだけで、顔が熱くなる。


天野のことが、頭から離れない。


「やばっ」


ぼんやりしていたせいか、
ジャージに着替え終えたところで、 

リストバンドを
忘れたことに気がついて、
教室に取りに戻った。


すると、誰もいない教室に
ひとり残っているのは、
天野だった。


「天野、なにしてんの?」


パッと顔をあげた天野が
一瞬、目を見開いて
にっこりと笑う。


「日誌書いてるの」


天野の笑顔にどきりと動揺して、
視線をそっと窓の外へと向ける。


教室に天野とふたりだけだと思うと、
なんだか落ち着かない。


あれ、でも……


「今日の日直は天野じゃないよな?」


黒板を見ながらたずねると、

日誌から目を離さずに 
天野が無邪気に答える。


「叶奈ちゃん部活だから代わりに!」


ちらりと天野の手元をのぞき込むと、 

日誌には
びっしりと書き込まれた文字。


お人好しにもほどがあるだろ。

人の日直とか掃除当番とか、
どんだけ代わってんだよ。


「そんなの適当でいいのに」


「暇だから」


小さく笑った天野の隣に
座ろうとしたそのとき、

ひょっこりと隣のクラスの山田が
顔をだした。


「天野、終わった?」


「あとちょっと」


「じゃ、下駄箱にいるな」


「わかった!」


いつもの明るい笑顔で応えた天野。


天野が山田と待ち合わせ?