じっと、朝歌に見据えられて
おずおずと口を開く。


「あのね、本当のことを言うと
自分でもなにがあったのか
よく分かってないの。

立ち上がって
後ろによろけたところを、
一ノ瀬くんが支えてくれたんだけど。

そこから、どうして
一ノ瀬くんの腕が
からまっちゃったのか……」


「何が、からまっちゃったの?」


何が……?

えっと、その……


「う、腕がね、
えっと、こう、私の前に……」


実演してみたところで、
1人では全く再現できない。


「腕? それより、羽衣、
顔が真っ赤になってるけど大丈夫?」


「う、うん、大丈夫っ!」


こんなとき、
なんて説明すればいいんだろう?


あれこれ頭を悩ませていると、
朝歌が不安げに眉を寄せる。


「でも、笑い事じゃないんだよ。
大騒ぎになってるんだから」


「一ノ瀬くんファンのいやがらせ、
本当に気を付けないと!」


神妙な顔のふたりに、
必死で説明する。


「誤解されるようなことは、
本当になにもないんだよ。

ただ、距離が近くて
すごくびっくりしたってだけで!」


一ノ瀬くんも、
朝早かったせいか

距離感が少し誤作動(?)
していたような気もするし。


練習で疲れすぎてるのかな?


「まあ、たしかに教室での
羽衣と一ノ瀬くんも、
いつも通りだったよね」


うんうん、その通り。

「ちなみに、
今日の一ノ瀬くんとの会話は?」