机の上に積まれたのは
途方もない量の数学のプリント。


「こんなの全部片づけてたら、
部活の時間、終わっちゃうよね」


がっくりと肩を落とすと、
いつもと変わらぬのんびりとした様子で

一ノ瀬くんが表情を緩める。


「前川、バスケ部の顧問だから大丈夫だよ。
適当なところで切り上げて
部活に出ろって言われてるし」


「練習遅れても平気?」


「少し余分に
グラウンド走らされるくらい?」


「ご、ごめん! 私のせいだっ。
やっぱり残りは私がやっておくから、

一ノ瀬くんは
部活に行っちゃっていいよ!」


「大丈夫だよ。
ふたりなら、このくらいすぐ終わるよ」


「本当にごめんっ」


「じゃ、貸しひとつってことで」


「うん、わかった! 

なんでもするから
必要なときは遠慮なく言ってね!」


その言葉に、
一ノ瀬くんがゆっくりと顔をあげる。


「……なんでもしてくれるの?」


その柔らかくて無邪気な笑顔にドキリ。


一ノ瀬くんって、

ふとした瞬間に
子どもみたいに嬉しそうに笑うから、
ちょっとドキリとするよ。


「うん、なんでもするよっ」


「わかった、楽しみにしとく」


「うん?」


にっこり笑った一ノ瀬くんに、
コクコクとうなづいた。