【一ノ瀬side】

「いよいよ、この非常階段とも
お別れだな」


卒業式が終わり、

非常階段の踊り場で
伊集院と炭酸で
乾杯する。


「ま、楽しかったんじゃね。
一ノ瀬の変質的な片想いも
実ったことだし」


「変質的って言うな」


伊集院が
爽やかに笑いながら
目を細める。


「天野さん、ホントすげえよな。
よく暴走してる一ノ瀬の相手してるよ。
マジ、感心する」


「天野、引いてるかな?」


「ほお、そんなこと、
気にするようになったんだ?

ま、お前の暴走ぶりに引いてるのは、
どっちかっていうと
お前の元ファンだろうし。

激減したらしいな、お前のファン」


「お陰様で」


「今やお前ら、
開南を代表する理想の
カップルだもんな」


「は? 理想の? 
なんだよ、それ。

それより、
お前こそ爽やか王子から
ドS王子に名称変更して
大モテだったんだろ。

天野が騒いでたぞ」


「ははっ、ドS王子!
ばかじゃねぇの?

でも、そっちの方が
俺にあってる気はするわ」


「性格、そのまんまだしな」


軽くうなずきながら
伊集院が嬉しそうに
空をあおぐ。


「とにかく、俺の場合は
行きたい大学で
これからも野球を続けられる事が、
なにより嬉しい」

伊集院のその一言に
深くため息をつく。

「ホント、腐れ縁だな」

「な」

奇しくも、
俺も伊集院と同じ大学に
バスケで進学することになった。


小さくため息をつくと、
伊集院と顔を見合わせて
笑い合った。


「天野さんは?」


「友達と別れを惜しんで
写真撮りまくってた」


「今から天野さんのこと迎えに
行くんだろ?」


「ああ、行ってくる。
じゃ、伊集院、大学の入学式でな」


「ああ、一ノ瀬、またな」


非常階段を数段おりたところで
伊集院を振り返る。


「伊集院、3年間、ありがとな」


それだけ言い残して、
まっすぐに天野のもとに向かった。