ふたりで手をつないで
境内をめぐると、

灯籠のやわらかい明かりに照らされた
花々や植物が浮かび上がる。

すると、一ノ瀬くんが
参道脇にある手水舎の前で足を止めた。

ご参拝前に手や口を清める手水舎の前で

一ノ瀬くんの柔らかい笑顔が、
灯篭の灯りにぼんやりと輝く。


一ノ瀬くんに手を引かれて
手水舎の石段をあがり、

ひしゃくの置かれている
手水に視線を移して、
目を見張る。

普段は澄んだ水が湛えられている手水に
色とりどりの花々が浮かべられていた。

隙間なく手水を埋める花々には
太陽の光がきらめき、
華やかな光の粒をはなっている。

その神秘的で艶やかな美しさに
息をのむ。


「花手水っていうんだって」


「す、ごい」


その美しさに、言葉を失う。


「昨日、風谷さんと一緒に
風で落ちた花を集めてお清めしてもらって
今朝、手水に浮かべたんだ」


「一ノ瀬くん、
風谷さんのこと知ってるの?」


驚いて見上げると、

柔らかい笑みを浮かべるて一ノ瀬くんが
ゆったりと、語る。


「花籠神社は花の神様。
だから、天野にいままで降りかかった
怖いことも悪いことも

すべて『お花様』が清めてくれるよ」


一ノ瀬くんの優しさに、
胸がいっぱいになる。

まぶたの裏がじんわりと熱くなり、

涙をこらえながら
ふたりで花手水を挟んで
向かい合った。



「天野、ずっと一緒にいような」


一ノ瀬くんの輝く笑顔に包まれて
ふたりで同時に花手水をすくった。