だって、
あの日の一ノ瀬くんの言葉を
思い出したら

一ノ瀬くんの顔なんて
恥ずかしくて、
見れなくなっちゃうよ。


隣を見ると、
一ノ瀬くんも真っ赤な顔を
していて。


「俺、あのとき、すげえ必死で。
結構恥ずかしいこと言ったような、
気がする」


「心臓が、破裂しちゃうかと思った」


下を向いたまま、小さく呟く。


「そのぐらい、天野のことが
好きだったんだよ」


甘くて柔らかな瞳を向けられて
胸の奥がぎゅっと苦しくなる。


私がケガをしてから
一ノ瀬くんは、
どんな気持ちで過ごしていたんだろう。


あの時の一ノ瀬くんの気持ちを
想像するだけで、申し訳なくて

一ノ瀬くんに
そんな思いをさせてしまったことが
悲しくて、胸に鋭い痛みが走る。


それでも、
一ノ瀬くんは、
諦めずに想っていてくれた。


石段をのぼりきり、
神社の境内にたどり着いたところで、

まっすぐに一ノ瀬くんを見つめた。


「一ノ瀬くん、
あの日、大切な約束を忘れてしまって、
本当にごめんなさい」


ゆっくりと頭をあげると、

一ノ瀬くんが凛とした強い眼差しで
私を見つめ返す。


「天野はちゃんと約束、守ってくれたよ。

少し時間はかかったけど、
あの場所に来てくれた。

ケガして、それまでのことを忘れても、
また俺のことを好きになってくれた」


甘く笑った一ノ瀬くんの手のひらが、
そっと私の頬をつつみ、

その体温に目の奥がじわりと
熱くなる。

けれど涙を堪えて
まっすぐに一ノ瀬くんを見つめる。


「学校に戻って、
一ノ瀬くんの隣に座ったときに
心が、ここだって思ったの。

帰ってこれたんだって。
すごく嬉しくて、温かくて。

それなのに一ノ瀬くんと過ごした
時間だけが頭のなかから消えていたの」


「……ごめんな、天野」


一ノ瀬くんの低い声に
ゆっくりと首を横に振る。


あの日の記憶をたどるように、
言葉をしぼりだす。


「一ノ瀬くんのせいじゃない。

落ちるときに、
一ノ瀬くんごめんって思ったの。

一ノ瀬くんに迷惑かけちゃったら
どうしようって。

一ノ瀬くんのことを
強く想い過ぎたんだと思う。

一ノ瀬くんとの思い出を
心の奥にしまい込み過ぎて、

自分でも
どうやって見つけたらいいのか
分からなくなっちゃったんだと思う。

本当に、ごめんなさい。
それでも好きでいてくれて、ありがとう」


悲しみににじむ声で伝えると、

ポロリと零れた涙ごと、
一ノ瀬くんに抱きしめられた。