【羽衣side】


一ノ瀬くんから解放されて
ふーっと長い息を吐く。

ううっ、もう心臓が爆発寸前……

甘すぎる一ノ瀬くんに、
全然慣れない……


夕陽に照らされて
金色に輝く一ノ瀬くんの顔を
恥ずかしくて見れないまま、

くらくらとしながら、
一緒に下駄箱に向かった。


「あのね、お姉ちゃんと礼くん、

ちょっと賑やかなふたりなの。
驚かせちゃちゃったらごめんね」


マンションのエントランスで、

かすかに緊張した面持ちの
一ノ瀬くんに伝える。


エレベーターに乗って、
家のなかに入ると、
リビングのテーブルに
お姉ちゃんと礼くんが座っていた。


「礼くんとは、会ったことあるよね?」


固い表情をしている一ノ瀬くんに、
お姉ちゃんがゆったりと視線をむける。


私と違って、
中学高校とエリア一の美少女で
有名だったお姉ちゃんは、

メイクで華やかに彩られた瞳を
パチパチと瞬きさせて、微笑んでいる。


そんなお姉ちゃんのことを
うっとりと眺めている礼くん。

その懐かしい光景に
心がポッと温かくなる。


「お姉ちゃん、こちらが一ノ瀬くんです」


背筋をピンと伸ばした一ノ瀬くんを
お姉ちゃんに紹介した。


「羽衣の初カレね! 
初めまして、羽衣の姉のリラです!」


お姉ちゃんが一ノ瀬くんと握手をするために
手のひらをさしだすと、

その手を、礼くんががっしりと掴んだ。


「よろしくな。リラ」


「なんで、
あんたと握手しなきゃなんないのよっ!」


「つうか、お前、そうやって
他の男に媚び売ってんじゃねえぞ?」


「はあ? 何様よ?」


「旦那様だよ、お前の」


いつものように、
ふたりのじゃれ合いが始まったので、
一ノ瀬くんに紅茶をだした。


「はい、どうぞ。
ちょっと賑やかでごめんね」


すると、礼くんが私に笑顔を向ける。