「おい、天野、やめとけよ」


「でも、あんなに好き勝手なこと言われて
黙ってられないよ。

だって一ノ瀬くん、
バスケ頑張ってるだけなのに!

なにも悪いことなんてしてないのにっ!」


「いいんだよ。べつに」


「だって、一ノ瀬くんは
そんな人じゃないのに!」


「また、嫌がらせされるぞ?」


「別にいいよっ」


「よくないだろ」


ぐいぐいと一ノ瀬くんに
その場から引きはなされて、

気が付けば、
誰もいない空き教室に来ていた。


すると、にっこり笑った一ノ瀬くんが
私の両肩をつかみ、
一ノ瀬くんの顔が目の前に迫る。


びっくりして目をぱちくりさせていると、
一ノ瀬くんは余裕の笑みを浮かべて
さらに顔を近づけてくる。
 

「それよりさ、
天野が知ってる俺って、どんな俺?

俺、そっちの方が、聞きたい」


うううっ。

近いよ、一ノ瀬くん……


無邪気に笑う
一ノ瀬くんにドキドキしながら

ぽつり、ぽつりと
必死に言葉を紡ぎ出す。


「一ノ瀬くんは一緒にいると、
嬉しくてホッとできるひと、だよ。

あと、バスケが上手で。

えっと、
スリーポイントシュートを狙う姿が、
すごく、すごく綺麗で。

それから
いちごみるくキャンディーが好きで、
お昼寝が好きで…」


「それから?」


「ちょ、ちょっと近くないかな?」


一ノ瀬くんのおでこが、
くっつきそうなくらいに近くに迫る。


「教えて、天野」


ううっ。


こ、こんなの無理に決まってるっ!

一ノ瀬くんの距離感、
やっぱりちょっとおかしいよ!