「天野、教科書貸してー」

休み時間に
いつものように教科書を借りに
山田がやってきた。

教科書を手に、席を立とうとすると
一ノ瀬くんに止められた。


「天野は、ダメ。ここにいて」


笑顔でそう言い残して、
一ノ瀬くんが山田のもとへと向かう。


「はい、これ。俺の教科書」


「へ?」
 

私の代わりに
教科書を差し出した一ノ瀬くんに、

山田がキョトンとしている。


事情が飲み込めず、

目を丸くして、
一ノ瀬くんを見ていると。


「いい加減、天野に頼るのはやめて、
川原さん本人から借りろ」


声を尖らせた一ノ瀬くんに
山田が動揺している。


い、一ノ瀬くん、

山田が朝歌を好きなことに
気づいてたんだ!


「ついでに言っておくと、
今後一切、天野に甘えるなよ。

天野は、俺専用なんだから」


その一言に教室が静まり返り、
次の瞬間、大きな悲鳴に包まれた。


「い、い、一ノ瀬くん?」


「だめだった?」


「だめって言うか……!」


「俺、独占欲、強いらしい。
ごめんな?」


そう言って
ふわりと柔らかく笑う一ノ瀬くん。


くっ、

こんなときに
その甘い笑顔を発動させるのは
ズルイよ……