翌朝、花壇に行くと
体育館からボールの音が響いてきた。


弾むボールの音に引き寄せられるように
体育館に向かう。

音を立てないように
こっそりと体育館のなかをのぞくと、

朝陽のなか
一心にボールを追いかけているのは

一ノ瀬くんだった。


一ノ瀬くんの凛とした姿が朝の光に輝いて、
感動的なほどに美しい。


真剣な横顔、俊敏な動き、
そして一ノ瀬くんの強くてまっすぐな瞳に、

心のなかの
なにかが強く反応する。


ドキドキして
切なくて苦しくて、たまらなくなる。


ボールを必死に追いかけている一ノ瀬くんは
扉の影からのぞいている私には
気がつかない。


一ノ瀬くんを見ていると
心臓がドキドキとその鼓動を早める。


どこか懐かしさを感じさせるその鼓動に
ほっと安心して目をつぶる。


すると、そこに
バスケ部顧問の前川先生の厳しい声が響いて
びくりと体を揺らした。


「あれだけ集中してやってきて、
MVP取った途端にそれか?

スランプなのか、気が緩んでるのか、
なにをグズグズ悩んでるんだか
知らねぇけど。

そんなんじゃ、やってけねえぞ。
甘ったれんな、
もっと集中しろっ。

大事な選抜控えてるんだろ?」



頭を下げてうなだれる一ノ瀬くんを
見ていられず、静かにその場を離れた。