「いや、なんでもないよ。

とにかく!

今のところ、羽衣に好きな奴なんて、
いなさそうだな」


安心したように
肩の力を抜いた礼くんにたずねてみる。


「お姉ちゃんに、なにか言われたの?」


「羽衣に悪い虫がつかないように
見張っとけって、言われてるだけ。

もちろん羽衣に好きな奴ができたなら
応援するつもりだけどな。

ただ、羽衣を困らせたり、
迷惑かけるような奴がいたら

全力で阻止する」


「なんだか、礼くん、
お姉ちゃんみたいになってきたね」


くすくす笑ってこたえると、
礼くんが柔らかな笑顔を見せる。


「そうだよ。

リラが望むとおりの、
羽衣の立派な義理の兄貴になれるように

頑張るからな」


幸せそうな礼くんを見ていると
私まで嬉しくなる。


「お姉ちゃんのハードル
なかなか高そうだけど!

礼くんが義理のお兄ちゃんになってくれて
嬉しいよ」


お姉ちゃんが礼くんと結婚して
もうすぐ一年。


礼くんの執念の勝利だろうな。



「どうしたの、礼くん?」


目の前で動きを止めている礼くんの顔を
のぞきこむ。


すると、
はっとした表情で礼くんが顔を上げる。


「いや、俺とリラのこと、
ちゃんと覚えててくれて良かったなと」


いたずらに笑った礼くんに
ぷくっと頬をふくらませる。


「忘れないよ、そんな大切なこと!
私、そんなに記憶力悪くないよ?」


「ごめん、ごめん」


困ったように笑う礼くんの様子が
なんだかいつもと違うのは、

気のせいかな?