「天野さん」

名前を呼ばれて顔をあげると、
トンと胸を押された。


バランスを崩して、
ふらっと、うしろによろけて

視界に飛び込んできたのは深い空の闇。


そのまま次の瞬間には
頭から石段を転がり落ちていた。


天地がさかさまにひっくりかえり、
肩や腰を石段に強く打ちつける。

全身を打つ
痛みと恐怖に目をぎゅっとつぶった。

ゴロンゴロンと転がっては
体を打ち付けて

どこまで落ちていくのか
分からない恐怖に

言葉を失う。


ごめん、一ノ瀬くんっ。


消えていく意識のなかで、

一ノ瀬くんの笑顔が脳裏に浮かび、

消えていった。