「あのさ、俺、すごく頑張るから、
もしMVP取れたら、ご褒美くれる?」


「うんっ、いいよ」


と、笑って応えたものの。


うっ、一ノ瀬くんが近いっ。


この一ノ瀬くんの距離感には
なかなか慣れません。


額が触れそうなほどに
顔を近づける一ノ瀬くんに

ドキドキしすぎて、

まっすぐに
一ノ瀬くんの顔を見ることができない。


すると、くすりと笑って
ストンと踊り場に
しゃがみこんだ一ノ瀬くんが

無邪気な笑顔で私を見上げる。


うっ、その笑顔、反則……


一ノ瀬くんは
動揺する私を気にする様子もなく、

甘えた声を出す。


「天野、ご褒美、なにくれるの?」


え?

ご、ご褒美?


「つ、つ、つ、つきあうとか?」


「それは、もちろん。
でもそれだけじゃ、足りない」


へ?

そうなの?

もちろん、なの?

いつの間に?


「天野からのご褒美、
楽しみに頑張るから」


「い、一ノ瀬くんっ!」


首をかしげる一ノ瀬くんに
言葉を振り絞る。


「ご褒美なんて、
そ、そんな約束、したかな?」


「言っただろ、俺、本気だって」


迷いのない瞳を輝かせ、
一ノ瀬くんがキラキラとした笑顔を見せる。


なんだか恥ずかしくて、
一ノ瀬くんをまっすぐ見れなくて


両手で顔を覆って、
熱くなるほっぺた隠した。


こんなの、ズルすぎる。
 

すると、非常階段から
教室へもどりながら
一ノ瀬くんが

声を落とす。


「天野、ごめんな。
今から練習戻らなきゃいけなくてさ。

待たせちゃったのに、
帰り、送れなくてごめん」

 
申し訳なさそうにしている一ノ瀬くんに
ぶんぶんと首を横に振る。

一ノ瀬くん、
休憩中なのに
わざわざここまで来てくれたんだ。


「忙しいのに、練習抜けて
来てくれてありがとう。

帰りは大丈夫だよっ。
それより明後日の試合、頑張って!」


体育館へ戻っていく一ノ瀬くんを
見送ると、

見えなくなるまで
一ノ瀬くんの後ろ姿を見つめていた。