だれもいない静かな教室で、
荷物を置いて
いつもの席に座る。


一ノ瀬くんは部活の後、教室に戻って、
少し時間をつぶしてから
帰るのだと教えてくれた。


人のいない教室を見回して、
ふーっと肩のちからを抜く。


がらんとした教室は
どこか特別な感じがしてホッとする。


一ノ瀬くんが部活の後に、
ここで一息つきたい気持ちが
ちょっとだけ分かるかも。


もし一ノ瀬くんと同じことを
感じられてるとしたら嬉しいな。


窓の外では茜色の夕焼けが終わりを告げて、
広いグラウンドが薄い夕闇に包まれていく。


一ノ瀬くん、本当にすごかったな…


カバンからノートを取り出すと、

体育館ではメモしきれなかった項目を
書き足しながら
今日の一ノ瀬くんを思い出していく。


相手のプレッシャーを素早くかわして、
正確にシュートを決めていく
一ノ瀬くんの姿から
ほんの一瞬も目が離せなかった。


いつもの一ノ瀬くんとは違う
凛々しいその姿に、
心臓がドキドキして大変だった。


いつもの一ノ瀬くんも好きだけど、
バスケしてる一ノ瀬くんは……


んんん?


いつもの、
一ノ瀬くんも好きって……?


いやいや、そういう意味じゃなくて!


と、ぶんぶんと頭をふって、
動きを止めた。


でも、
ほんとうに、
そういう意味じゃ、ない?


だって、こんなにドキドキするのは
一ノ瀬くんと一緒にいるときだけ。


緊張したり、ドキドキしたり、
ホッとしたり。

こんなに気持ちが揺れ動くのは
一ノ瀬くんだけ。


そのとき、
教室の扉がガラガラと開かれた。