「一ノ瀬くん、数学のお礼とお詫びは、
また別の機会に!

さすがに私だと力不足で、
一ノ瀬くんに迷惑かけちゃうよっ」


すると、一ノ瀬くんが
ぐぐっと顔を近づける。


「あのさ、俺、天野に頼んでるんだよ?」


間近に迫る天野くんの綺麗な瞳が、
ちょっとだけ怖い。


「アメじゃ、だめ……かな?  
一ノ瀬くんが好きなやつ。
いっぱい持ってるよ?」


「アメ?」


「……アメ」


じっと、一ノ瀬くんに見据えられて
身動きできなくなる。


「ダメ?」


「ダメ」


一ノ瀬くんの瞳は
どうしてなのか、真剣そのもので。


無言のまま
数秒間、抵抗してみたものの……


うっ、
そんなに綺麗な瞳で見つめてこないでぇ。


「天野、顔、真っ赤!
ってことで、天野の負け。

放課後、よろしく」


ポンと私の頭に手をおいて、
嬉しそうにしている一ノ瀬くんの笑顔は

弾むように輝いている。


そんなキラキラとした笑顔で見つめられて
抵抗なんて、できるはずがないよ~。

ううっ。


「……やらせていただきます」


一ノ瀬くんの笑顔に勝てるはずもなく、
両手で
一ノ瀬くんからノートを受け取った。


むむっ、

ノートが重く感じるのは気のせいかな?


じっとノートを見つめて、
しばらく一時静止。


こ、これは、責任重大!


「じゃ、あとでな」


煌めく笑顔を残して
軽い足取りで朝練に向かった一ノ瀬くんを

ドキドキしながら見送った。