違う。


『一条くん』という、存在から目を背けていた私自身が許せなかった。



涙を流し続ける私を、一条くんはどう思うのだろう……。



と、思った瞬間。


体がふっと軽くなった。

鼻を掠める柑橘系の爽やかな香り。

温かい……ぬくもり。



私……抱きしめられている?


一条くんに……抱きしめられているんだ。




「ごめん。俺のことも、怖いかもしれないけど」



一条くんの声は優しく、どこか切なそうに。



「抱きしめたかった」



と、私の耳元で呟いた。

耳を掠める言葉に、私の涙は止まった。


私を抱きしめる腕に、力が入ったのが分かる。