「佐伯くんは」 私は今にも取り乱しそうな佐伯くんの手に触れる。 その手は震えていた。 「佐伯くんは、どんな状況に立っていても。佐伯くんだよ」 「……え?」 「私には想像できないくらい、辛い思いをしていると思う」 私は佐伯くんの手を握った。 「自分が分からなくなると思う」 だけどね。 「……『佐伯 奏』は、ここに居る。どんなに苦しくても、『佐伯 奏』は存在しているの」 何が言いたいのか。 自分でも分からなくなってくる。 だけど、この気持ちは伝わって欲しい。