その通りだ。

この顎をつかむ手を払いのければいい。

たったそれだけのこと。




でもどうして…?


頭では分かっているのに体が動かない。


私…何を考えているの?




いっそこのままエヴァンの思う通りにされてしまいたい…。

なんて思う自分がいた。




何で…?

何でそう思うの…?




すると私の目から一粒の涙が頬を伝った。




「あ…っ」




私が急に泣き出してしまったのでエヴァンは驚いて手をすっと離す。



「申し訳ございません…。泣かせるつもりはなかったんです…」



そう言うとポケットからハンカチを取り出して優しく涙を拭ってくれた。

すると何を思ったのか私はハンカチを持つ彼の手に自分の手を重ねる。



「…っ!」



エヴァンは再び驚いて私を見つめる。




「エヴァン様は何も悪くありませんわ。私が…どうしてあなたの手を払わなかったのか分からないんです…。自分が…分からなかった…。ほら、こうやって私が手を重ねてもあなたも払わない。一体どういうことなんでしょうか…?分かるなら教えてください…」





潤んだ瞳でエヴァンの顔がよく見えなかった。

そして次に感じたのは彼に抱きしめられているということ。

全身が彼の体温で満たされる…。

その心地の良さに思わず身を委ねてしまう…。