「頭の中で消そうとしても消そうとしても何度も何度も蘇ってくんのよ。
あの男。この関係が崩れるくらいなら友達のままでいいと思ってんだけど
それでもいつこいくらい、あたしの頭の中を支配する」




木村さんが独り言みたいに言った。

消しても
消しても
蘇ってくる。



関係が崩れるくらいなら友達のままでいい
それでもしつこいくらい、頭を支配する。



その存在が、山岡さんではなかった事はもう明白だった。





「井上さーん、ロビーに来客がいらっしゃってますぅ~」


「来客?」


「西城グループの、西城大輝さん」


名前を聞いて
思わず飛び上がった。




「やぁやぁどもども」



ロビーに行ったら、ネイビーのスーツを着た西城さん。
爽やかな笑顔を見せて、こちらへ手を振ってくる。
受付にいる山岡さんが顔を出して、こちらを見つめている。

ただでさえ目立ってしまう容姿。
西城グループの御曹司つーか、青年実業家風。黙っていたら爽やかに見えるのに。それともこれは昼のマジックのせいなのか。
しかしこの男が笑顔の下に鋭い刃を隠している事を知っている。