続・闇色のシンデレラ

SIDE 壱華



「……昨日のことをいつまで怒ってんだ」



翌日の朝8時。


組員さんがそれぞれ同じ角度で頭を下げて待機している本部事務所1階。


わたしは近場の出張に向かう志勇を笑顔で見送ずにいた。



「いや~いいもん見ちゃったな~」



その分、颯馬が始終ニヤニヤ笑っている。



「壱華の揚げ足をとるな」

「サカってた兄貴が悪いんだろ?
俺はたまたまそこに居合わせちゃったっていう被害者なだけで……」



理由はそう、執務室での濃厚なキスシーンを颯馬に見られてしまったから。


思い出しただけで赤面してしまうあの場面を人に見られたなんて───恥ずかしさで爆発しそうだ。



「てめえのせいで今日はいってらっしゃいのキスもねえんだぞ」

「今はダメでも帰ってから甘えればいいじゃん」

「あ?お前の非番、永久に火曜日から外すぞ」

「え?壱華の目の前でそんな意地悪していいの?」

「てめっ、また呼び捨てしやがって!」



出かけなきゃいけない時間なのに、言い争うことをやめない若頭と若頭補佐。



「いいから2人ともいってらっしゃい!」



はずさしさも相合わさって、とうとうわたしが小声で背中を押し出した。


彼らが玄関を出ると途端に静かになる事務所。



「ふぅ、さてと……」



腰を曲げていた組員さんもぞろぞろと頭を上げて仕事に向かおうとしているところ。


わたしはその内のひとりの視界に入った。



「開けてもらって、いいですか?」

「……え?」



仰天して目を白黒する彼がいるそこは、凛太朗を軟禁している部屋の前。


昨日の事件が嘘みたいな朝だけど、実際はまだ何も終わってないんだ。