「…………びっくりした」

 樹君と一緒に電車に乗り、彼が住んでいる家に向かいながら私は独り言の様に呟いた。


「私は何もしていないのに、…何だかこっちが、素敵な贈り物をもらった気分」


 彼は吊り革につかまりながら、もう片方の手で私の頭をくしゃっと撫でた。


「苺のそういう所が、人の気持ちを優しくするんだ。…元気もくれる」


 電車を降りて、人気の無い住宅地の中を二人で歩く。


「暗いから、帰りは必ず送って行くよ。時間、大丈夫?」


「うん。家には連絡したから平気」



 彼は私の手をしっかり握り、指と指をからめた。



「俺も、苺にたくさん元気をもらったんだよ」




「…………いつ?」





 彼は私に、輝く笑顔を見せてくれた。





「3年間ずっと」




 …………!!




 氷が一瞬で融けたみたいな笑顔。



 その温かさに、


 心の奥にある私の恋心の


 形まで、変えられてしまいそう。










 彼の家に着いた。


 家というよりは、カラフルで小さな可愛い『お菓子の家』みたいな外観。


「入って」


 彼は鍵を開け、お店だった外観の家の中に入った。

 その家の中には沢山の、色とりどりの包装紙とリボンでラッピングされた、様々な洋菓子が並んでいた。

「今、家族全員で新商品を試作開発中。まだまだ未完成なんだ」


「すごい!!」


 キャンディー、クッキー、チョコレート、…見ていて思わず楽しくなってくるくらい、数え切れないくらいのお菓子のギフト達が並んでいる。


「もうここは店じゃないけど。中はかなり、あの時のままでしょう。奥にある部屋にみんなで今も、住んでるんだ」


 ここは以前私がお邪魔した事のある、『チョコチョコキャッスル』という名前のスイーツショップ。


 ……だった。


「うん。……少し覚えてる。懐かしい」


 彼のお父さんの、笑顔も。




「キッチン見てみる?」




「うん!見たい!!」




 彼は私の手を引き、キッチンの奥に案内してくれた。




 広々として清潔で、ピカピカにされているその場所には、私が見た事の無い様な調理器具や調味料が並んでおり、すぐにでもお菓子を作ることが出来そうだった。



「素敵…………!」

 私は感動して、キョロキョロ辺りを見回していた。



 すると。



 彼は私を後ろから、急に抱きしめた。




「…………!」





「ごめん、苺」




「…………?」




「すごく嬉しかったんだ…………本当は。苺が勇気を出して、俺に告白してくれた事」



「…………!」



「なのに、あんな風に怒ったりして。友達にけしかけられたからって、クラスでみんなの前でだって、そんなのは…どうだっていいのに」





「…………うん」





「文化祭に毎年出してた、苺が作ったクッキングクラブのお菓子、大好きだった」




「…………本当?」




「文化祭のクラスの喫茶店で苺が出した、クッキーの味も好き」




「…………え?」




「スイーツコンテストに出した苺シフォンケーキも…食べてみたかった」




「…………そんな事まで知ってるの?」




 彼は笑いながら頷いた。




「苺が作るお菓子は、いつも形がイマイチだったけど味は……」





 彼は私を、自分の方に振り向かせた。






 そして、






 味わう様に何度も、






 私の唇にキスをした。






「…………もっと食べたくなる」