…いや、教室にいた誰かの声だろう。
まさかそんな空耳もそうそう聞こえまい。
すでに移動を終えて、化学教室の席に着いていた俺は、手に持っていたスマホの画面をじっと見つめる。
「伶士ぃーっ!何ボーッとしてんのー!」
「…わっ!」
本当に、不意を突かれた。
隣にはいつの間にかニコニコしながら、ショートボブの小柄な女子が座っている。
「…驚かすな!美森!」
「驚かしてないー!」
「じゃあ耳元で叫ぶな!」
突然隣に座ってきたのは、クラスの女子、安中美森。
サッカー部のマネージャー。
女子だけど、どちらかと言えば友達のようによく話をする方。
「ねーねー伶士、水口先輩に聞いてくれたー?」
「聞く?…あぁ、あの話か」
「で、どーなの!東先輩、まだカノジョ出来てない?出来てない?」
「あ、うん…この間の女子の告白はお断りしたってさ」
「よっしゃー!」
「…っつーか、そんなに東先輩が好きなら早く告白しろ」
「ダメー!大会終わるまでダメー!今は大会に集中!」



