「…え?」



その時、菩提さんが驚いて小さく声をあげる。

どうしたのかと彼の目線を追うが…。



「あ…」



目の前は、驚く光景だった。



《………》



あんなにのたうち回って、一心不乱に暴れていた妖怪が。

ピタリと動きを止めた。

あの散らばる無数の手も、その場で固まったかのように動かないでいる。



な、何が…?



「まさか…聞こえてるのか?」と、菩提さんはボソッと呟いた。




《…イ…てタのに…》



声が…。



「こ、言葉を…?」

この声は、菩提さんの耳にも届いていたようだ。

その頭に響き渡るような声は、続く。




《…あいして…た…のに…》



そして、崩れたおぞましい表情の顔が、グイッと動く。

その方向、視線は母さんに向けられていた。




《…愛…してたのに…おま…え…おまえがいるからあぁぁっ!!あああぁぁぁっ!》




はっきりとした言葉を放って、急に激昂し、地鳴りが起きそうなぐらい吠え出す。

その感情が噴き出す勢いで、動きを止めていた無数の手たちが、再度獰猛に動き始めた。



そして、その手は一斉に、そこに立っている母さんを狙う。



「…母さんっ!」