「…倫子さん!こんなことはもうやめて!お願い!」
母さんは少し進んだところで止まり、大声で必死に呼び掛けている。
足が…震えている。
「私が…私が、あなた方の間に割って入ったから…で、でもっ…!」
母さん、知って…。
「…で、でも、私だって、あの人を…愛してるの!…あなたにも負けないぐらい…」
必死だ。
すごい必死だ。
普段、こんな大声あげたり、自分の意見を主張することなんてないのに。
今も、おぞましい妖怪の姿を目の前にして、恐くてガタガタと震えているのに。
それでも、必死でいるんだ…。
《伶士はおかあさんが守るからね?》
「…あなたが憎いのは、私でしょう?!だったら、私を呪い殺せばいいわ!」
(母さん…)
…母さんが必死で呼び掛けても、無駄なんだ。
鹿畑倫子さんは、もう彼女であって彼女じゃない。
もうワケわからなくなってるんだ…!
「だからお願い!伶士に手を出すのはやめて!…やめて下さいっ!」
なのに…。
やめて!やめて!と必死で喚いて、妖怪に呼び掛ける母さんを、茫然と見てしまう。



