「…とことん悪趣味だな。本当に厨二病か」



俺を背に庇って盾になってくれている菩提さんが、ボソリと呟く。

それは、味方の俺でもゾクッとさせられるほどの恐ろしい口振りで…。



「そういうわけで、僕はこれで退くよ?どうか丁重に退魔調伏してあげてね?」

「…あ、おまえ!こらぁぁっ!」

「また、お会いしましょう?音宮の皆さん?…橘の息子さん?」



そう言って、彼の翼はバタバタと音を立てて動き始める。

翼をはためかせると、また風が起こり、渦巻いて彼の姿を包んでいった。



「に…逃げる!」

「追うな!なずな!」



風が巻き起こって、すぐに止んだが。

そこにはもう、黒い翼の彼は姿を消していた。

なずなの言うとおり、逃げた…?




「り、リグ・ヴェーダ!逃げた!」

「…なずな!そんなことより、目の前を見ろ!」

「わ、わかってるよ!」



目の前には、獰猛に動く手だらけの妖怪。

なずなは舌打ちして、その姿を見上げて構える。



「…こんな一般人の霊に、望みもしない妖化焚き付けやがって!」