慌てて僕の家にスーツケースを取りに行き、時刻は16時半。


「じゃあねほのちゃん、宗!」

「また来てくださいね!」

「帰り気をつけて」

手を振り駅に向かって歩き始めた姉は、数歩進んで振り返った。

「宗、ちょっと」

「何?」

手招きをされ、よく解らないまま姉の元に行く。


「あんた、ほのちゃんのこと大事にしなさいよ、泣かしたら許さないからね」

「え…何急に」

「あんなに可愛くて優しい子、滅多にいないから。大切にしなよってこと。じゃあね」

姉は今度こそ駅に向かって歩いて行った。



「宗ちゃん、さっき舞香さんに何て言われてたの?」

ほのかの家に戻り片付けを再開すると、ほのかがテーブルを拭きながら訊いた。


「ん? ……ほのかが、優しくて可愛いって話」

「えっ?」

答えると、少し顔を赤らめたほのか。……可愛い。



「宗ちゃん」

「ん?」

「舞香さん、宗ちゃんより好きかも」

「えっ」

う、嘘……何で…!? 姉さんに負けた………!?

頭をフル稼働させて、僕の何がいけなかったのか必死に考えていると、ほのかは楽しそうに笑った。


「嘘だよ」

宗ちゃんのそんな必死そうな顔初めて見た〜、と笑いながら、彼女はまた手を動かした。

彼女がそんなことを言うなんて思っていなくて、僕は何だか恥ずかしくなって、彼女の髪をわしゃわしゃとかき回した。

「ちょっ、宗ちゃん、何するのやめて〜!」

ほのかの楽しそうな声が部屋いっぱいに広がった。






( 冗談は言わないで )