玄関前にいた彼は開口一番文句だったが、それでも一緒に歩き出した。

「ねえどうして私が出てくるのがわかったの?」

「お前の用意が遅いと思ってさ。手伝おうと思ってきたんだよ」


向かい側のマンションに住む彼は、なぜか双眼鏡を首に下げていた。

彼の自宅は高層階なので自室からは岩田家の広い敷地がみえており、ここの庭を通り正門から出てくる美友を見ることができるのだった。




「まあ?優しいのね?」

「今頃かよ?ふわ、ふわあぁああ……」


昨日の入学式の美友の暴走でくたびれ疾風だったが、傍の彼女は元気そうだった。

こんな彼女と一緒に歩く酒星疾風の父親は、岩田家の料理人をしていた。

現在はうらら学園のお抱え料理長で、幼稚園から大学まで運営するうらら学園の食堂の献立や食材選びを全て任されている。言わば『うららの台所』と言われている父であった。


そんな父の跡を継ぐのは疾風の兄であり姉であったので、三番目の彼は料理の道を好まず、好きな武道に没頭している少年だった。


しかし、勉強の不出来を父に叱られた彼は、この春一緒に入学した美友のお目付役としてうらら学園に貢献するように言われた。

「おい、車来るぞ」

「はい?」