その声はどの声よりも強く美しく、汚れのない純粋な声であったので、この声を聞いた合唱部員達は自分達のしている事が急に恥ずかしくなり、歌を始めた初心を思い出しハーモニーを合わせることに心を一つにして行った。


こうして入学式に参列した保護者達に鳥肌を立たせた校歌は、鳴り止まない拍手とスタンディングオベーションの祝福の大喝采で閉じたのだった。




こんな暖まったライブじゃない入学式は進み、羽織袴姿の岩鉄理事長が壇上に上がり、挨拶を始めた。


多分長くなるであろう挨拶の間、休憩タイム!と決め込んだ疾風は、おやすみなさいと椅子に沈もうと壇上を見た瞬間、思わずあ!と声を上げそうになった。


「学生諸君!『棚からぼた餅』という慣用句を知ってるおるじゃろう?これは楽して儲けるという意味に使われますが、さにあらず!けっしてそうではありませぬ……」


唾を飛ばす岩鉄の端に立っていた彼女を見つけた疾風は、びっくりして眼をこすっていた。


「まず、棚にぼた餅を乗せないとなりません!これは手が汚れる大変な作業ですぞ……」


この話を彼女は必死に手話で説明していた。