そんな時。
夏樹はようやく総務の上野冬季に会う事が出来た。
総務から回ってきた書類を、持ってきたのが冬季だった。
「君が、上野冬季さんなんだね? 息子が、お世話になっているようで」
「あ、いえ。僕は何も」
「君は結婚していたんだね? 知らなかったよ。総務は全員、部長以外は男子社員は独身だって聞いていたから驚いたよ」
「あ、いえ…」
冬季の目が泳いでいる…。
ん? と、夏樹は冬季を見た。
「僕が奥さんと言ったので、結婚していると思い込まれてしまったようですね。すみません。彼女は同棲しているだけで。まだ、結婚しているわけではありません」
「そうだったんだ。幸喜が、とても嬉しそうに話してくれてね。上野さんの奥さんってきいて、どんな人なんだろうって思っていたんだ」
「そうでしたか」
「好きな人がいつも一緒にいるって、とっても安心することだね」
「え、ええ…。では、失礼します」
冬季は社長室から出て行った。
「…なんか変だなぁ。…なんとなく動揺してたけど…」
夏樹は何となく、冬季に不信感を抱いたようだ。
その日の夕方。
幸喜はいつものように、スーパーに行って雪と会っていた。
ちょっと寒くなってきたことから、雪は毛糸の帽子をかぶっている。
赤い毛糸の帽子を見て、幸喜はとても可愛いと言っていた。
「有難う、これは手編みなの」
「お姉ちゃんが作ったの? 」
「うん、こうゆう編み物好きみたいで。やってみたら、一晩で作れちゃったからびっくりよ」
「すごいね。僕にも作って、同じ帽子」
「同じのでいいの? 男の子だから、青とか緑とかのほうがいいんじゃないかな? 」
「うーん。そうだね、じゃあ青でお願い」
「判ったわ。ちょっと時間かかるけど、作ってみるね」
「うん。じゃあ、僕のと合わせて赤ちゃんの帽子も作ってくれる? 」
「赤ちゃんの? 」
「僕の家、赤ちゃんがいるんだ。女の子で、愛って名前」
「愛…? 」
「とっても可愛くて、お爺ちゃんがすごくかわいがっているんだけどね」
「お爺ちゃんが? 」
「うん。それでね、赤ちゃんも寒くなると毛糸の帽子が良いと思うから、作ってほしいの」
愛はちょっと考え込んでいた。