「修ちゃん。」

向かいの窓が開いた。
ピアノから帰ってきた美香さんが顔を出した。

「メール見たよ。そっち行っていい?」
「うん。」

僕らは部屋で、その時初めてまじめな話をした。
一緒に遊ぶことはあったけれど、
話をするためにここにいるということは初めてだった。

「修ちゃん、その子って髪が長くて目がくりっとしてて、細い子だった?」
「うん。」

すごくかわいい子だった、ということはあえて言わないでおいた。
けど僕が可愛いと思ったことはお見通しだったみたいだ。

「その子さ、修ちゃんも思ったようにかわいいから男子にモテるのね。
で、うちのクラスのほかの女子がムカついて、
みんなでシカトしようっていうメールがまわったわけ。」

女子ってなんでこんなに面倒くさいんだろう。

「で、私は「やだ」ってみんなに返信したの。」
「はぁ?」

まあ、そうだろうな、美香さんなら、と思っていたけれど、
「いやだ」は率直過ぎだろうと、ちょっと笑ってしまった。

美香さんはそのあとの休み時間に
案の定クラスの女子数名によびだされて
どういうことか問いただされたそうだ。
そして美香さんは答えた。

「いや、真理亜のことを無視する理由がわからないんだよね。
 モテることは悪いことなの?真理亜はかわいいじゃん。そう思わない?」

「だからムカつくんじゃん。」

メールの送り主の女の子はすかさず言う。

「あんたたちシカトすることっていいことだと思う?
私、そういうの好きじゃないからしない。
それにさ、シカトしたって別にいいことないし。
なんかそういう努力って無駄。
私は真理亜嫌いじゃないし。だからパス。」

美香さんのその言葉に、数人の人が
「やっぱ私もやめる。」となってクラスの女子が仲間割れしたそうだ。
それでその真理亜さんは特にいじめにはあわなかったらしい。
僕が思うに、真理亜さんは美香さんにお礼を言いに来たのだろう。