ピンポーン…
チャイムを押す指が
寒さと緊張でカタカタと震えていた。
ナオくんが玄関に出てくるのは
そう遅くなかった。
ガチャ
「…………ヒイロ」
「ごっ……ごめん、急に…きて…」
「いや、…どした?」
「あ、あの、……」
どこから話し始めれば良いやら見当もつかず、
必死になって言葉を捻りだそうとするも
優しいナオくんは玄関を大きく開き、
「寒いやろ、入り」
と、首で呼び寄せてくれた。
「うん、…ありがと」
久々に入ったナオくんの部屋は、
以前来た時よりも薄暗く、荒れてるように見えた。
おしゃれに立ててあった物が倒れていて、
壁に飾ってあったのも、今では地面に転がっている。
「な、ナオくん……」
「悪い、全然片付けてなくて」
「いや、オレがいきなり来たから…ごめん」
重苦しい空気の中、そっと
いつもの定位置に腰を下ろした。
ナオくんもそれに合わせて、オレのすぐ隣に座る。
いつもよりも、少し距離が近い気がした。
「…ゲームする?」
「ううん…、今日はナオくんと二人で話がしたくて…」
「…………………」
震える声を懸命に落ち着かせながら、
沈黙の間の無音空間に耐える。
すぐ隣にいるけど、彼の顔を見ることはできない。
どんな表情をしているのか、怖い。
今日、嫌われるんかな。
友達、終わるんかな。
様々な不安が全身によぎって
冷や汗が滲んだ気がした。
「ナオくん、さ…、卒業したら関東行くって…ほんま?」
ものすごく勇気がいったけど、
きっと、単刀直入の方が良いと思った。
それは勇気というより、
早くこの状況を終わらせたいという
"逃げ"なのかもしれない。
「………まぁ、そうやな…」
掠れた息と同時に吐かれた言葉は、
ナオくんの肩に重くのしかかっているようだった。
親友のオレに伝えてくれなかった事実なんかよりも、
ナオくんの悲しそうな姿を見る方がよっぽど辛かった。
「なお、くん…っ」
気づけば、オレは泣きじゃくっていた。
鼻をすすり、次から次へと流れる涙が
胸元を濡らしていることも忘れるほどに。
「…ほんまにっ、行って、しまうん?」
「…………………」
泣いてるオレに、ナオくんは何も言葉を返さない。
ただ、俯いてピクリとも動かないまま
オレの問いかけを黙って飲み込んでいる。
「ナオくん…」
このままでは、ダメやと思った。
オレが駄々をこねてしまったら、
ナオくんはもっと辛い思いをするかもしれないから。
ひたすら沈黙を続けているナオくんの方を見て、
オレは必死に笑って見せた。
「さっ、寂しいけどっ、
でも…離れても、オレは親友やからっ」
精一杯やった。
しゃくりあげながら、涙を溢れさせながら。
それでもちゃんと、笑顔で
"親友"で居続けるとナオくんに誓った。
それだけ、分かってくれていれば良い。
他にはもう、何も望まない。
「いつか、いつか、
ナオくんがこっちに帰ってきた時は
また一緒にあそんでくれたら嬉しい…っ」
オレの恋は、もう終わったようなもんだ。
ナオくんが親友としてのオレを求めてくれるなら
喜んで一生"親友"になる。
「ナオくん…っ、今までほんまに楽しかった…!
オレを、"親友"にしてくれて、
ほんまに、ありがーーーーーーー」
