ケガに気づくのも早かったし、手当てもスムーズだし。


こういう傷は日常茶飯事だから俺もできるようになりたい。




「骨は折れてないようですが青く腫れてますし、念のため病院に行ったほうが……」


「え!? 病院!?」




別に病院が特別嫌いってわけじゃないんだけど……


俺が病院に行ったことがうわさになったら、“負け犬”の俺の立場がよけいに悪くなりそう。しまいには今まで以上にヤンキーに狙われかねない!


それはやだ! 絶対阻止!



「へ、平気です! ほらこの通り!」



立ち上がり、その場で足踏みをする。

少し痛むがどうってことない。




「で、でも……」


「本当に大丈夫です! 手当てしてくれてありがとうございました! それじゃっ」




早口で告げ、一目散に走り去った。


歩道橋が見えなくなったところで一息つく。




「痛っ……。走るとけっこう痛いな」




あ。しまった。
足首に巻いたままのハンカチ……どうしよう。


ピンク色の小花柄のハンカチ。

いかにも女の子って感じ。




「……すごく、いい子だったな」




見ず知らずの俺に躊躇なくハンカチを使って応急処置してくれて。


頭がよくて、性格もいい。
しかも、見た目もいい。


色素の薄い赤茶色のふんわりした髪の毛を、耳の下でふたつにくくったヘアスタイル。


ぱっつん前髪に、つぶらなダークブラウンの瞳。



優しくて、かわいい。

“負け犬”な俺とは本来関わりのなさそうな人。




「また会えたら、ハンカチ返さないと」




会えるのかはわからないけれど。