負け犬の傷に、キス



津上さんの反応を待たずに、一歩前に踏み出した。


襲いかかってくる男から逃げないし、避けない。



迎え撃つ!



右手に視線を落とす。

ずっと持っていたクレープの生地はわずかにしなっていて、カスタードクリームはどろりと垂れてきた。



せっかく買ったけど……仕方ない。

あんたにくれてやるよ。




「おりゃあああ!!」


「おいしく食べろよ!」


「ああ――っむぐぁ!?」




拳を振り上げた男の大きな口に、クレープを丸ごと押しこんだ。

口を押さえたまま、(アゴ)ごと勢いよく上に突き出す。


今ので脳が揺れて、意識はもうろうとしていることだろう。



「……っ」



地面に伸びた男の口から、いちごのかけらとカスタードクリームがあふれる。


起き上がる気配はない。


安堵しながらも

今になって罪悪感にさいなまれる。



あぁ、怖い。


逃げてるほうがよっぽど気が楽だ。




「なるほどね〜。どれだけ傷つけても同じなら、意識をなくしたほうが手っ取り早いわけか」


「だったら俺のも食わせてやるよ」




柏はあっという間に男と距離を詰めると、ピザ風クレープを顔面にぶつけた。


う、うわあ……。
ピザソースが目に入って痛そう。


痛覚が鈍くなっていても、目に何か入れば多少なりとも刺激されるもんな。