聞いてもよかったのかな。

でも知りたいし。


もっと、話したい。




「あー、えっと……“負け犬”の、うわさ……」




です、と続いた語尾は消えかかっていた。




「知ってますか?」




黙って首を横に振る。

男の子の横顔がやるせなく歪んだ。




「……よ、よければ、聞かせてほしい……です」




茶色い瞳がまあるく瞠られた。


あ! わたし何言っちゃってるんだろう……!

これじゃあ詮索してるみたい。



「あ、ああ、あの、その……もしまた狙われたとき、何もわからないままなのは嫌というか……混乱するというか……」



こんなの言い訳だ。建前だ。

ただ知りたいだけのくせに。



「……そう、すよね。知っておいたほうがいいのかもしれない」



うろたえるわたしを横目に、ぎこちなく頬をゆるめる。


男の子は開口一番の言葉を探すように夕焼け空を仰いだ。




「俺、こんなフツーなナリしてますけど、実は暴走族に入ってるんです」




驚きはしなかった。

なんとなく予想はしていたから。




「双雷って知ってますか?」


「ソウライ……。うん、聞いたことあります。強いところですよね」


「うんそう、強いとこです」




ふはっ、と隣で乾いた笑みが漏れた。