負け犬の傷に、キス







それから1週間も経たないうちに、望空ちゃんは“嬉色望空”になった。



薫がいろいろやってくれたらしい。

あらゆる書類を変えて、不審がられないように手配していた。雅財閥の力ってすごい。



苗字が新しくなって、望空ちゃんがたまり場に顔を出す日が減った。


望空ちゃんに寄せる期待と信頼に、だんだん心配と不安が合わさっていく。



望空ちゃんが洋館に来る日は、総出で出迎えて喜んだ。望空ちゃんがいるときといないときの差が、本人には伝わらないのが悩ましいところ。





晴天の今日は――いない日。


せっかく晴れたのに、洋館内は曇天模様だ。



望空ちゃんのせいだよ。






「なあ、真汰」




夕闇の過ぎた時間帯。

幹部室に招いた次期幹部の真汰に事情を話した。


せめて上層部くらいは真実を知っていたほうがいい。



話したって望空ちゃんにバレたら怒られちゃうかな。やだなあ。望空ちゃん厳しいしなあ。



でも、ごめんね。

先に謝っておく。


知らなくていいことと、知らなくちゃいけないことがあるんだよ。特に知りたがってる人には教えないと。



無知なままじゃ無自覚に傷つけてしまうかもしれない。


それが一番厄介で、つらいよ。




「望空ちゃんを、双雷を、よろしくな」


「うっす!」


「いい返事だね〜」


「ま、どうにかなるだろ」




ニヤリとする薫と柏に、シンタのでかい図体はカチコチに強張る。


あーあ、恐縮しちゃって。

あのふたりはそれをわかっててからかってるようだし。



こういう空気もあと少しでさよならか。


ちょっと悲しいな。