今の俺にできるのは、居場所を残すことくらい。
「望空ちゃんじゃなきゃダメなんだよ」
今じゃなくていいから。
いつか、でいい。
思い出して。
仲間の気持ちに気づいてあげて。
みんな待ってるよ。
「……もし、」
「え?」
「もし……また、不幸になったら……?」
望空ちゃんの視線が下がっていく。
自ら視ようとしなくなった。
冷えきった頬に手を伸ばす。
傷痕のついたところをわざと強めにつまんだ。
「いっ、」
幼い体が固くなった。
傷にさわったんじゃなくて、たぶん、俺の力が強すぎたせいだ。
「だったら俺が願ってるよ!」
力を弱めるどころか強めて、ややこけた幼い顔を上げさせた。
「これから望空ちゃんにうんとたくさん幸せなことが訪れますように、って! 願ってる!」
「……っ、」
やっとその黒い瞳に俺が映った。
涙の膜が張ってる。
どうしたら望空ちゃんが幸せになるんだろう。
幸せ……。
幸せといえば、うーん……そうだなあ。
たとえば――黄色、とか?
でも黄色を毎日身につけるのは難しいよな……。
“キイロ”。
嬉しい、色。
「嬉しい色で、嬉色……。それを名前にしたら、幸せが舞い込んできたりしないかな」
望空ちゃんの頬をむにむにいじりながら、独り言をぶつぶつ呟く。
嬉色 望空。
今日みたいな雨空でも、幸せになれるような色を望めば、すぐに晴れてしまいそうな名前。



