負け犬の傷に、キス



ピクリと望空ちゃんの体が揺れた。




「…………きゆ、さ……?」




ようやく望空ちゃんと目が合った。

でも……まだ俺を視てない。




「あたし……独りに、なっちゃいました」




口の端が持ち上げられた。


それだけ。

他はどこもゆるんでない。


あまりに不安定。




「独りじゃないよ! 仲間がいるよ!」


「でも、……でも、だって……みんな、こんなあたし、やでしょ? 弱くて、みっともなくて、情けない……人殺しなんて」




おぼろげな声色が俺の胸を刺す。


……そっか、だからか。

ここに俺だけが来たのは。


病院にいたときは真汰が先に駆けつけた。


だけど今日は俺しかいない。



あの留守電は俺以外には入れてなかったんだ。




「き……えて……なくな、り、たい」




雷鳴がとどろく。


それでもちゃんと聞こえた。
聞いてしまった。



――消えてなくなりたい。



望空ちゃんの弱音。


消えるって……双雷から?

それとも……。




「望空ちゃんは、次期総長だよ」


「……で、も……」


「それは撤回しない。絶対に」




望空ちゃんが俺だけを信じてるわけじゃないことも、それでもすがれるのは俺だけだったことも、わかってるよ。


憧れ、なんだもんね。
過去形かもしれないけど。



もうすぐ俺は総長じゃなくなる。


双雷から、いなくなる。